2021年10月23日【資金繰り】と【節税】における表裏一体の関係
■私はよく、
昔から親しくさせていただいている
経営者の方とお話をする
機会があるのですが、
その中で
「借金をするのが大嫌い」
という方がいらっしゃいます。
現にその方の法人は
全くもっての無借金経営で、
それに加え、
【請求書をもらうとすぐに支払う】
という、取引先にとっては
大変ありがたい存在なんですね。
■実際のところ、
現金商売で潤沢に現金預金が
溜まっているため、
無借金であっても経営は回っている状態で
本当にうらやましい限り…
それに加え請求書が来たら
パパッと払ってしまうので、
そういったことができるのも
【潤沢な資金があってのこと】
と言えるでしょう。
■しかしながら、
私がよく顧問のお客様などに
お話をさせていただくのが、
「借金があったとしたら、
なるべく返さずに置いておき、
請求書に関しても、
支払期限までは支払わない方が良い」
ということ。
というのも、経営を考えると
【いつ、どんなことが起こるか分からない】
状況ですので、
【万一の場合に備え
キャッシュは持っておいた方が良い】
という考えなんですね。
■請求書については、
支払期限は大抵の場合
1ヶ月後などですので、
それをあえて前倒しで
支払う必要はないですし、
借入金に関しても、
【金利を支払うだけで、長期間において
他人のお金を借りることができている】
という状況ですので、
これを返してしまうのは
『資金繰り』の面からいくと
場合によっては危険なことである
とも言えます。
■資金繰りに関しては
そのような状況なのですが、
『税金』に関して、少し違った視点から
見ていきたいと思います。
この税金の面で
気を付けないといけないのが、
【支払った金額が何でもかんでも
経費になるというものではない】
ということ。
例えば、3月決算の法人が
3月に入り向こう1年分の研修費を
支払ったとしても、
その全額が経費になるわけでは
ないんですね。
会計の考えとして
【期間損益計算】
というものがあり、
【その期間に対応するもの
だけが経費となる】
ということになるため、
仮に3月に向こう1年分を支払ったとしても、
【その3月分のみしか経費にならない】
というのが会計や税務のルールなんです。
■しかしながらここには例外も。
それは
【短期前払費用の特例】
というもの。
これに関して言えば、
【その支払った日から1年以内に
サービスの提供を受ける支払いに関しては、
例外的にその翌期分を含む1年分が
全額当期の経費になる】
というものがあります。要は、
【払った時に全部経費にしていいよ】
ということなんですね。
とは言え、これには注意が必要で、
【何でもかんでもこの『短期前払費用』に
該当するものではない】
わけです。
■大前提として上述した
【支払った日から1年以内に
サービスを受けるものである】
ということ、そしてその
【サービスの内容が等質等量】
…つまり、
【常に同じサービスの量や内容である】
ことを前提としています。
そしてこの特例の適用を
受けようとするためには、
その前払いをした年の翌年も
同じように前払いをすることになり、
【今回だけ前払いをし、
翌年、翌々年からは毎月払いに戻す】
といったことをしてしまうと、
これは
【租税回避行為】
と考えられ、税務調査で否認される
ということになりかねません。
したがって一度この
『短期前払費用の特例』により
年払いをしたら、
【翌年からもこの前払いを
継続していかなければならない】
ということなんですね。
■この例として、
『賃借している物件の賃借料の前払い』
が考えられます。
店舗などで毎月の賃料を支払っている場合、
【これを決算月に
向こう1年分を前払いすることにより、
全額当期の費用になる】
ということなんですね。
その他には
【生命保険料の年払い】
も考えられます。
生命保険に関しても上述した
【等質等量に該当する】
ということですね。
逆に該当しないものとしては、
【税理士の顧問料】
が。(税理士としては残念ですが(笑))
税理士の顧問料については
そのサービスの内容が
毎月変動していくため、
【等質等量とは言い難い】
という理由からです。
■いろいろ述べてはきましたが、
私自身はこの
『短期前払費用の特例を受ける』
ということはあまり前向きではありません。
というのも、上述した
『資金繰り』の観点から言うと、
【前払いをすることにより
キャッシュが少なくなってしまい、
さらにその前払いを毎年継続しないと
いけないから】
ということに他ならないわけです。
そして、第三者に前払いすることになり、
この特例を受けるためには契約書を
【年払いとする】
という旨に変更してもらい、
その支出をすることになるため、
自分で自分の首を絞めている
というような状況に
なってしまいがちなんですね。
■当然、
この支出をすることにより
経費が生まれるのですが、
その期に税金が下がるのが、
多く見積もっても法人税等の税率分
である30%。
ということは、
【残り70%は資金が流出してしまう】
ということなんです。
そしてこれは単なる
『経費の前倒し』であるため、
【トータルすると、経費となる金額は
全くもって変わらない】
ということ。
そのように、
【当期のみならず翌期以降の状況も考え、
この『短期前払費用の特例』を考える
必要がある】
ということになります。
■そのような状況ですので、
冒頭に述べた経営者の友人には
この『短期前払費用の特例』
を伝えるのは少々怖いな
というところ…(汗)。
サクッと払ってしまいそうですので。
これは、以前の記事の中でも
度々申し上げていることではありますが、
【経営においての血液は現金である】
と言えます。
やはり血液が回っている経営こそが
血色良く健全であると言えるため、
しっかりと手元により多くの現金を残し、
多くの現金が経営に回っている
状況を目指して、
常にその経営を考えたいものです。
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《本日の微粒子企業の心構え》
・『借金』にせよ、
『経費の支払い』にせよ、
その期限までその支払いをしない方が
経営における資金繰りからは
ベストである。
・【短期前払費用の特例】により、
場合によっては向こう1年分の
経費を前払いすることにより、
当期に経費を多く作ることができる。
・しかしながら、この特例の節税効果は
【当期のみ】であり、
翌期からも前払いを
継続しなければならず、
【現金が大量に流出する】
というデメリットもあるため、
現状と翌期以降の状況を総合勘案し、
慎重に検討したいものである。
・何はともあれ
【現金は経営の血液である】
と言える。
現金を潤沢に有し、同じくその現金を
うまく経営に回すことにより、
しっかりとした経営基盤を作ることが
できるものと心得ておくべし。
今日も最後までお読みいただきまして、
ありがとうございました。